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ミーツへの道 「街的雑誌」の時代

ミーツへの道 「街的雑誌」の時代

 「街場の大阪論」の著者、江弘毅(@kohirok)が、いかにしてミーツ・リージョナルに関わり、そして離れていくかを綴った1冊。
 著者が展開する「街的」という概念になじめるかどうかで、ある意味読者を選ぶ本だが、そこのところを飲み込めれば非常に楽しく嬉しい読書になることは間違いない。
 「街的」ということをものすごく荒〜くまとめてしまうなら、誰しも自分が生活する場というものを持っているはずであり、その場というのはカタログ的な「情報化された情報」で語りつくせるものではない。そこにはこぎれいなものもあれば、薄汚いものもあるはずで、自分が生活することにより、そのいずれをも誰もが飲み込んで生活しているはずである。ということかな。
 著者は、大阪でもかなりディープな土地として知られる(笑)岸和田出身で、しかもだんじりに命を燃やすこれまたディープなお人柄。一方で、現代フランス哲学に一方ならぬ興味を持ち、学生時代からファッションやサーフィンに明け暮れたという。だんじりを引っ張るおっちゃんがフランス哲学を語り、ブリットファッションを語るというのも意外性なのだが、そうした二面性というか、幅の広さというものは、ヒトだけでなくそもそも「街」自体が持つものなのであろう。
 あたし自身、大阪のど真ん中で生まれ育ち、山一抗争の頃には、事務所には近づかないようにと学校で注意を受けた育ちなのだが、一方で、我が「街」にはびっくりするような上品なおばあちゃんが住んでおり、バリバリの共産党員の夜中まであいてる本屋があり、ヘンコなおっちゃんがむちゃくちゃおしゃれにカフェオレを入れる喫茶店があったりした。
 大阪というところは、何でもかんでも簡単に飲み込んでしまうところのある、ある意味恐ろしい街で、そこには、今のメディアが捉える「大阪」なるものは本当はない。メディアが描く大阪は、上っ面の薄っぺらい、ホンの上澄みに過ぎず、そんなものはテレビのバラエティよろしくあっという間に飽きられてしまう。
 たまさか、東京にも拠点を持つ生活になっているのだが、東京の割とディープと言われるところなため、あまり感じないのかもしれないが、例えば新宿であったり、渋谷であったりは、「ツクリモノ」感にあふれているように思えて仕方がない。まぁ、東京に住んでいる訳ではないので、あまりえらそうなことは言えないけれど。
 東京のヒトは心斎橋商店街を通って、パチンコ屋の隣に老舗の和装屋さんがあるのを見て仰天するらしい。でもニンゲンってそもそもものすごく雑多なイキモノであるはずで、1から10まで完全に割り切れるヒトなんていない。街もある意味イキモノで、そうなるとその存在も雑多なものである。
 ヒトの個性はいろんなヒトに会い、遊び、喜び、悲しむことで形作られていく。街もまた同じ。そこに住まうヒト、店が街の個性を育て、変容していくということだろう。そういう意味で、あたしが生まれ育ったミナミはもう死んでしまったし、あたしの胸の中にしか存在しない。
 初めて著者の本を手にした時、既視感があった。それがこの本を読んで氷解。このおっちゃんは、日本のなんでもをケトバしていた、かの椎名誠の大阪バージョンだったのだ。だからこそ、この本の元原稿は、椎名が生み育てた本の雑誌に連載されていたのだろう。
 ミーツの編集方針にしても本の雑誌の街バージョンである。本の雑誌は、本好きが自分たちのために作ったのが始まり。ミーツもまた、自分たちが好きで好きでたまらない、自分のホームグランドである街を紹介するというスタンスで編集されてきた。だからこそ、その辺にごろごろしているいわゆる「情報誌」とは違った立ち位置が確保できたのだ。
 著者とTwitterでやり取りをしていて、この本の後半は涙なしには書けなかったと聞き、はて、と思っていたが、後半に差し掛かるにつれ、中小子会社の悲哀というものが現れる。これまた、椎名と共通する。読んでいて胸くそ悪くなる話が小気味よく、淡々と綴られているが、ここまで抑制して書いていることに筆者のモノカキとしての矜持が嫌というほど見て取れる。
 あたし自身、ミーツを手に取ることは今までなかったのだが(あまり雑誌を買わないヒトなので・・・)、こういう編集者の心意気が感じられるものであれば、それは当然売れるだろう。
 なんでもかんでも、カタログ化し、大量消費を推し進める今の社会のあり方には逆行するのかもしれないが、社会ってデジタルなものではなくアナログなもの。それを理解できるかどうかが、この本を理解できるかどうかの分かれ目かもしれない。
 それにしても、真夜中にもかかわらず、続きが気になって全部読んでしまった。しかもAmazonで別の本まで注文してしまった。ホント、江さん、一体どうしてくれるんですか(笑)?
 関西で生まれ育ったヒトはぜひ読みましょう。それから、関西人を理解したいと思ってるヒトもぜひ。