暗い情熱と清算、とは

指揮官たちの特攻―幸福は花びらのごとく (新潮文庫)

指揮官たちの特攻―幸福は花びらのごとく (新潮文庫)

 以前にも探した城山三郎の渾身作。割と古い時点の作品かと勝手に思っていたが、平成になってからまとめられたものと知る。
 城山三郎の経済人モノも面白いのだが、第二次大戦モノが面白いのはどうしてだろうと考えていた。また、時には感情的なまでの筆致(冷静、淡々が特徴の城山にしては)が戦記モノに現れるのはどうしてだろう、とも考えていた。
 本作を読めばそうした疑問はすべて氷解する。
 もしかすると、明日は自分であったかもしれない、もしかすると、それは自分であったかもしれない、と思いながら、出征者を見送り戦死者を弔う行為。戦争という狂気の時代において、何よりも狂うのは、誰もが死を当然と思うことかもしれない。
 かれこれ20年近く前になるが、北アイルランドベルファストで、英陸軍が駐屯し、完全武装でいることに、まったく疑問を感じず当然のものとしている市民の姿に慄然としたことがある。
 城山にとって、「無駄死」、「犬死」を強いられた将校や兵卒は、それは自分の姿であったかもしれない、というわたしたちにはまったく理解できない、つらさが強烈に迫ってくる。
 それは後悔であり、自責であり、共感であり、また鎮魂である。
 何かで城山が自分たちの世代に課された義務は戦争を語ることである、と言っているのを読んだことがある。本作には城山自身の経験も描かれており、まさに、城山は本作を脱稿することで、自身に課せられた義務を果たしたのであろう。